2022年12月、QINOプロジェクトは白山の森にチーズを埋めました。
雪に閉ざされて人が立ち入ることのできない冬の森。その可能性を探る、ひとつのチャレンジです。
それから約半年後、雪が溶け、草木が青々としてきた5月に、そのチーズを掘り起こし食べてみようと森に集まりました。
埋めるチーズの選定から掘り起こしたチーズの評価をしたのは、北陸を代表するチーズの専門家・村中美恵さん。
村中美恵
チーズ工房ミモレット(金沢市)勤務。全国に42名、北陸唯一のフランスチーズ鑑評騎士ダストフロマージュオフィシエ。金沢で20年以上ナチュラルチーズを広め続けている伝道師で、多くのシェフやソムリエが頼りにするチーズの専門家。
◾️実験内容 / 土中に次の7種類のチーズを埋めた / 期間 2022.12〜2023.05
1.コンテ(加圧圧搾ハードチーズ)フランス、牛乳
2.ゴルゴンゾーラ(青カビブルーチーズ)イタリア、牛乳
3.ミモレット1ホール(非加熱圧搾セミハードチーズ)フランス 、牛乳
4.ミモレットカット(非加熱圧搾セミハードチーズ)
5.ジェラールウオッシュ(ウオッシュチーズ)フランス、牛乳
6.ヴァランセ(ウオッシュチーズ)フランス、ヤギ乳
7.カマンベール(白カビチーズ)フランス、牛乳
※ミモレットホールは経木で包み、それ以外はすべて陶磁器の瓶に入れ地中へ。
◾️️加工内容 / 瓶に入れる際、4つの異なる加工を施した。
A.包装されていないチーズをそのまま瓶に入れた
B.チーズの入った容器を瓶に入れ、チーズに触れない状態でクロモジ蒸留水を入れた
C.日本酒(吉田酒造「手取川スパークリング」)でチーズ表面を洗い、瓶に入れた
D.杉やヒバの経木でチーズ外面を包んで瓶に入れた
◾️実験内容一覧
すべてのチーズを試食し、評価した。その結果は次の通り。
美味しく食べられる:○ / 美味しいとは言えないが食べられる:▲ / 食べられない:×
村中さんの評価を受けて、全員で試食。
新品のチーズを食べたのち、土から掘り起こしたチーズを味見。
◾️村中さんコメント
【全体的な評価】
今回の実験は、私にとっても、とても興味深いものでした。イタリアには土の中の穴に埋めて熟成させる「カチョ・ディ・フォッサ」というチーズがあります。現地で見たことはあったのですが、実際にやってみたことがなかったので、掘り起こすのを楽しみにしていたんです。
実際に掘り出してみると、残念なことに瓶の中に水が入ってしまっていたり、湿度が高かったりしたために「熟成」ではなく「腐敗」になってしまったものがありました。
「カチョ・ディ・フォッサ」は、もともと農民が税金を取られないように隠していたチーズが、熟成しておいしくなっていたことが始まりです。隠し場所は今回のような森の中ではなく、納屋のような場所。なので、屋根があり雨露がしのげます。また、雪に覆われる白山とは湿度も違っているはずです。
だけど、日本の風土に合わせて越冬させることはできるかもしれません。
そのためには、腐敗を防ぐために水が入らないようにすることや湿度を管理すること、場所の設定など必要になってくると思います。
【それぞれのチーズについて】
- コンテ
杉でくるんでいたこと、水があまり入り込んでいなかったので、外皮以外は食べられる状態です。ただ、もともとのコンテの良さ、ナッティな感じが失われています。
- ゴルゴンゾーラ
青カビが茶色くなっているか懸念したのですが、意外に状態を保っているようです。
ただ、味がなく、劣化しているようで、限りなく×に近い△です。
中に経木の味が入りすぎているような気もします。
- ミモレット
ホールのものは、まわりは食べられる状態ではありませんが、まんなかのほうは食べられる状態です。全体的に蒸れてしまっているのですが、中央部分はそれほど蒸れていないからだと思います。ただ、食べられるけれど、味が抜けてしまっていて、ミモレットの味わいが感じられません。わざわざこうする意味があまり感じられないというのが正直なところです。カットしたものも、いずれも水が
入り込んでしまっていたようで、まわりは腐敗に近い。ただ、意外とおいしかったのが、日本酒で洗ったもの。これは旨みがのっていました。もうひとつ、蒸留水も、キャラメルのような風味が加わっています。
- ジェラール
ウオッシュチーズは、おいしくするために、地元のお酒などでまわりを洗いながら仕上げます。もともと匂いするものが多いのですが、ジェラールはその中で匂いが少ない方です。
日本酒は、水に浸かっていまっているので、腐敗が進んでいるようで危ないです。
△のものも、経木まわりのカビの付き方からして、あまりいいカビではなさそう。外皮は嫌な菌がいっぱいついているようなので、まんなかだけなら食べられます。
- ヴァランセ
ヤギのチーズはもともと香りが強いのが特徴です。
△は2種類ありますが、ギリギリの△。食べることはできますが、おいしいものではありませんでした。
- カマンベール
蒸留水と日本酒は、いずれも水が入ってしまっていて、状態がよくありません。
ヒバの経木でくるんだものは、ほんのちょっと舐めるぐらいならOKかもしれません。
カマンベールは白カビで発酵しているもの。良くない菌が入ってしまっていて、発酵ではなく、腐敗になっているようです。
ミモレットの日本酒と蒸留水は、うまく熟成できればおいしくなるかもしれません。
△をつけましたが、ウオッシュに慣れているマニアックな方なら、ジェラールの
まんなかの部分もおすすめします。
【番外編】
ヒバで包んだグリュイエルチーズを蜂蜜に漬け込んだものがありましたが、これが今回の実験の中で一番美味しかったです。蜂蜜で覆っているので、余計な菌を寄せ付けなかったのではないでしょうか?グリュイエルというのも良かったのかもしれません。ハード系でコンテに近いチーズなので。
【今回の実験を終えて】
今回、いろいろ実験してみて、とても面白かったです。こんなに味が変化するんだと改めて知りました。ただ、味の変化をきちんと見るためには、水がかからないようにするなど工夫が必要ですね。水、空気の出入りがないようにすれば、熟成もうまくいく可能性が高まります。
また、チーズを包むときに、2種類の経木を使いましたが、香りの変化を見るのであれば、藁や葉っぱでもいいかもしれません。
こうして木の皮や日本酒などと一緒に土の中に埋めるのは、やり方を変えればもっといいものになりそうだとも思いました。
◾️参加メンバー(順不同、敬称略)
白峰産業 尾田弘好
チーズ工房ミモレット オフィシエ 村中美恵
C.P.A.認定チーズプロフェッショナル 木船奈保
白山市市議会議員 中野進
Earth Ring 大本健太郎
Earth Ring 川上由夏
ハザイナー 福江翔太
食プランナーつぐまたかこ
雑草研究家 Michikusa
虫秘茶 丸岡毅
food creation 諏訪綾子
food creation 古井真也
AOI Landscape Design 吉田葵
AOI Landscape Design 高石竜介
川魚・山菜料理和田屋 和田智子
河川研究者 坂本貴啓
165Design 南部寛子
写真家 安川結子
エディター・ライター 吉澤志保
フォトグラファー 黒崎健一
心理臨床オフィス・プシケ 北本福美
スタイリスト、地域ブランドプロデューサー 中川みどり
金沢大学名誉教授 太田富久
デジタルクリエイター 古谷祐司
一里野高原ホテルろあん 山崎太一郎
一里野温泉岩間山荘 北村祐子
レストランぶどうの木 レ・トネル 福島大悟
レストランぶどうの木 レ・トネル マルコ
ミントレイノ 宮保遊
日本エージェンシー 高西順子
Ethical Basic 馬淵裕平
Ethical Basic 石岡翔太
Ethical Basic 関根帆生
QINO 高平晴誉
QINO 三嘴光貴